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Prologue

2007年04月27日
Witch in ladbroke grove

ハマースミスラインに乗って、『妖精の住む森』という駅で降り、白い瀟洒な家の建ち並ぶ通りを幾本かぬけると角にイーグルと看板の出たパブがある。
その前でぼくらは待ち合わせをしていた。

待ち合わせ時間の5時を5分ほど過ぎた頃、魔女はやってきた。
イーグルパブを右手に折れてしばらく歩いたところに赤いレンガブロックのフラットがあり、青い重たい鉄の扉を開けると長い階段がある。
一段ずつゆっくりと魔女の後ろから階段を上っていくと公衆便所のような異様なにおいが鼻を突く。途中に何箇所か鉄の扉があるがどれも黄色い頑丈そうな錠前がかけてあり開かない。
息を止めて4階まで行くと重い扉があり、さらに進むとそこに彼女のすみかがある。
ドアを開けると薄暗い廊下があり、左にキッチン、右に魔女の手洗いその奥に彼女の寝室。そこには壁いっぱいに大きなクレオパトラの写真があり、家中に何かをミックスしたような香辛料の匂いが立ち込めていた。
魔女の顔には数十針の縫い傷があった。
翌日見せられた大柄な彼女の体にはそれ以上の傷あとがあった。
名前はサリーという。
サリーは細くて暗い階段を下りて地下の部屋に僕を案内した。


ぼくはしばらく仕事を止めてこの街に絵を描くためにやってきたのだ。
半年ばかりを海辺の静かな町で過ごし、残りの半年をこの様々な容貌と違う言葉を持った人々の集まるコスモポリタンで暮らすことにして、暫くの棲家を探していた。
三十年間、生きるために企業の部品となってクリエイティブと呼ばれる仕事をこなしてきたけれど、自分の中で何一つ創造されない、日々を浪費する生活をストップしたかった。

生きることは楽じゃない。
その上、人生は長くない。


地下に降りると右に小さな暗い部屋があって左にぼくの部屋、その間にきれいとはいえないがトイレとバスルームがある。右の小さくて暗い部屋にはアリと呼ばれる背の低い男が住んでいるようだ。
僕の部屋には、古いダブルベッドと安っぽいドレステーブル、白い小さな机と椅子、古びたチェアが二つ、そして冷蔵庫があった。
壁は薄汚れ、前の間借り人が何か貼って壁の汚れを隠していたのか、所々にテープをはがした後がある。
ベッドの下には、スキンのケースが落ちていた。
西側の鍵の壊れた小さな窓からは、明るい日差しが部屋いっぱいに差し込んでいた。
その向こうに白い花をいっぱいにつけた大きな木が風にゆらゆら揺れていた。
ぼくは、ただその窓だけが気に入ってこの部屋を借りることにした。
それで充分だった。

ぼくは一日中部屋を掃除した。
次の日も掃除をした。
三日目は手垢のついた白いドアをみがいた。
小さな部屋は三日間掃除をしても足りないほど汚れていてぼくは、四日目にはそれ以上掃除をするのを止めた。

サリーが地下の納戸の黒いカバンを探しに来た。
彼女は顔のいくつもの傷を消すために病院で手術をしてくるのだ。
納戸から羽のついた魔女の帽子を出して「嫌いか?」と聞くから「いや・・」と応えるとぼくに差し出した。ぼくは羽根のついたその帽子をかぶることは一生ないだろうけれど、受け取った。

彼女が病院に行ってぼくは西側の窓から大きな木の葉が風にそよぐのを眺めていると、誰かがドアをコツコツとたたいてきた。
ドアを開けるとそこには羊男が立っていた。
ぼくは、いつかダンキンドーナツの前で羊男とすれ違ってからずっと彼に会えるのを待っていた。
羊男はあれから彼に起こった様々な不幸な出来事を話してくれた。
彼がここに来る前に働いていた図書館の地下室のこと、そこに閉じ込められた男が脳みそを吸い取られる前に一緒に逃げ出してきたこと、口のきけない女の子が美しい月の夜に大きな鳥になって彼らを図書館の地下室から助け出してくれたこと。
それから、双子のニンニクを育てていること。
今、双子のニンニクの名前を考えているということ。
ぼくが、ニンニクの芽が伸びてきたらきざんでスープに入れるといいよというと、そんなかわいそうなこと出来ないよと言って少し怒って部屋から出て行った。
しばらくして、ひつじ男は皿いっぱいのあげたてのドーナツをもって部屋に帰ってきた。






********* 実は、ぼくはいまキングスクロス駅から魔法学校に通っていて、明日は金曜なので試験があるので、ではまた。

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コメント
石になる魔法をかけられて、そこから動けなくなるかもしれませんね!
魔女の放つ異臭に耐えられなくなった時は、ホウキでスイスの小屋に飛んできてください。
 朝 引きずりこまれるように一気に読んで~~~また、2回目を読み返したところです! すごい、物語ですね! 
双子のにんにくを育ててる男の存在も気になります!
また、続編が読みたいです!
ぼくの地下室
絵海と愛と一飛にはぼくの部屋のことが全てほんとうの話だって分るんだよね。
そのうち、つづき書くからね。
脳みそを吸われそうになったら、スイスの小屋に行くよ!!
羊男とニンニクと
久しぶりに村上春樹を2冊読んで、羊男に会えてあんまり嬉しくて、気がついたら、ポートベローのフラットのお話にもに登場していました。にんにくを育てている男の子に怒られるかと思いましたがいまんとこ大丈夫そうでした(笑)!

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